造園法を初めて科学的に研究・紹介したとされる明治23年初版の本書

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科学的とはいっても著者が画家ということもあって、技術論よりも庭全体のレイアウトや石の組み合わせ方などを豊富な図によって視覚的に解説してありますが、それぞれイラストがとてもわかりやすいです。

これは中で紹介されているイラストのほんの一部。
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燈籠だけでもこんなに沢山図解されています。

この本の出版意図については明記がありません。

庭の持ち主に向けて「庭師任せでなく、自身も深く関わりながら「プロセス」を大切にする庭づくりをしよう」というメッセージがあるようにも受け取れますし、

結構細かく説明してくれているところを見ると実際に設計するプロに向けたものとして書かれたとも言えそうです。

文章としてはかなり単純明快に書かれているので、その道の人でなくてもよく分かる作りになっています。「将来のマイホームには自分で日本庭園を」などとお考えの方などにもおすすめします。

またオリジナル版は図解がメインですが、本書では日本造園学会理事の鈴木誠氏の文章による解説も加えられてさらに内容を充実させたバージョンとなっています。英語になりますが、鹿鳴館を手がけた建築家ジョサイア・コンドル氏による解説も付いています。

私は東京、港区の図書館で借りられました。お近くの方は是非手にとってみてください。amazonでも購入できます。


圖解庭造法の要旨と感想など

さて、ここからは自分のためのメモも兼ねて、感想もまじえながら本書で勉強になったことなとまとめていきます。

自然は”醜様が多い”?

“自然の景勝を庭中に現す”ことを要旨の一つとする日本庭園だが“自然そのものには、欠形・醜様が多い”。”人工を加えない自然の景色は心眼を楽しませるとともに、自ずと悲哀の情を誘い、心気発揚させるとともに、心を悩ませるようなところがある”。(筆者はこういった自然の醜様の特徴として、特に険路や混み入った森林のように暗くて乱雑な風景を挙げている。)

自然の姿を庭に落とし込む際には、自然がベストな状態の瞬間をもって、美しくない部分は切り取りながら、“人の心眼を楽しませ、身体を安らかにする”ような軽妙な風景であることが望ましいとする。

“樹木は枝葉があまりにも繁茂せず、透けていること。樹根には苔を生やし、蒼潤たるをよしとする。”

庭の端に少しくらいならこうした生い茂った樹林を置くのは構わないとのこと。

現代のランドスケープアーキテクトを対比すると、土地によってはわざと元々の姿にできるだけ手を加えず「どこをデザインしたのか分からない」ほど”自然な”仕上がりを目指されることもありますが、日本のいわゆる”伝統的な”庭造りから通じるものではないのかもしれないですね。

庭造りのステップ

ステップ1
庭中の主題を定め、守護石と真木(それぞれ庭の中心となる石と木)の位置を決める

ステップ2
築山(土砂などで作った人口の山)の高低・遠近、泉水の広狭・屈曲を考える

ステップ3
樹石・燈籠・垣墻(”かきね”のこと)の配置を工夫する

これらは全て本中で網羅した図を参照・考察することでおのずからどうすべきかが分かってくるだろう、とのこと。結構、「Watch and Learn. 見て倣え(習え)」 ってタイプの人のようだ。

スタップ3までは紙の上でデザインするが、これが決まったら実務的なステップに移る。

ステップ4
庭坪の地形と雨水の吐き口を測り、現実の地割をする

ポイント

  • 基本的には家の縁先から奥に向かってわずかに傾斜させるのがよい
  • 雨水の吐け口は3〜4箇所、雨水は池に流れ込まないように
  • 順序は前景から奥に進み、再び前に戻ってまた奥へ、そして最後に中間部を仕上げる
  • 石組みははじめに、樹木はその後に
  • ただ大樹や大石を運搬するのは大変だから、順番はフレキシブルに
  • 築山は水を引くと意外に低く見えるのであらかじめ少し高めに計算すると良い

と、はじめに初歩的な知識を確認したところで、この先は庭のイラストを見ながらの解説に移ります。それぞれの場所に置かれる岩や樹には名前が付いていて、どんな意味があるのかといったことがそれぞれ決まっているんですね!

王道から始まって簡略化バージョン、変形バージョンなど多くのサンプルを見せながら解説してくれるので、次に日本庭園を訪れた時はより深く鑑賞を楽しめそうです。

図解 庭造法(ずかい にわつくりほう)
:本多 錦吉郎(ほんだ きんきちろう)
発行:2007年(平成19年)8月20日(※オリジナルは1890年/明治23年)
出版:マール社
英文解説:ジョサイア・コンドル(Josiah Conder)
156ページ(日本語93ページ・英語63ページ)
ISBN 978-4-8373-0433-3