植物が光合成をして酸素を作り、同時に有機物(糖)を蓄えていく(成長する)ためには、二酸化炭素量、そしてさらに温度の4要素が適切である必要があります。

半年間園芸屋さんで働いてましたが水やりの回数とか日当たりとか、肥料の量と回数とかっていう質問は日常茶飯事なんですが、「二酸化炭素濃度はどのくらいにすればいいですかねぇ」なんて質問はまず聞いたことがありません。農業をプロフェッショナルとして営まれている方なんかだと、グリーンハウスの中の二酸化炭素濃度を高めるような技術は割と知られているようなのですが、これが室内環境になると人間に住みよい空気環境であることが第一ですから、逆に「(夜間呼吸する)植物は寝室に置かない方が良い」なんていうことが一般常識のように言われる国もあるようです。そういえば園芸屋さんに来たシリア人のお客さんが「朝方のお店の中とか、息苦しくないの???」なんて聞いてきたなぁ。

実際ハウス栽培のレタスでハウス内は夜間、二酸化炭素濃度が少し上がるということはあるようですが、(詳細は以下でご確認を)結論だけ先に言うと、観葉植物を置いたぐらいで人間の害になる程のCO2濃度の差が出ることはあり得ない、と言うのが実際のところのようです。

記事を書くにあたって色んなサイトの情報をあたりましたが、データは主に須賀工業さんによる技術報告を元にご案内しています。

二酸化炭素の濃度が多い方が光合成が進む

「植物の育成を早めるために家の中の二酸化炭素濃度を高くしています」などという献身的な植物愛好家はまずお目にかかりませんが、常に呼吸を続ける人間の住む環境においては図らずしも二酸化炭素の濃度が外気より高くなっています。二酸化炭素濃度のみを取ると、室内は成長促進に最適な環境であると言えるのかもしれません。

二酸化炭素の量(空気中に含まれる炭酸ガスの濃度)が増えると植物はどれくらい成長が進むかという疑問に対しては以下のグラフのような実験の結果が見つかります。

CO2濃度と光合成量の関係

標準的な外気の二酸化炭素濃度は381ppm(空気中の0.038%が二酸化炭素)なので、グラフでは一番下のラインに相当します。同化量は光合成量と考えていいです。
この環境下では気温が20度から30度に上がったところで光合成量は増えず、また光の量も一定量を超えると光合成量が増えなくなります。

一方二酸化炭素の濃度が1300ppm (空気中の0.13%が二酸化炭素)まで上がると温度や光の強さが増えるにつれて光合成量がぐんと伸びます

室内の二酸化炭素は1000ppm近く

前項で、二酸化炭素の濃度が1300ppm(0.13%)あると通常の空気環境より2倍も3倍も光合成量が増えたという実験例をご案内しましたが、1300ppmって一体どれくらいなのかをすぐに想像するのは難しいかもしれません。
以下では人間の生活する環境においての二酸化炭素濃度の目安を一覧でご案内しています。

二酸化炭素濃度 目安
350〜600ppm 屋外の外気
〜1000ppm 室内での目標。思考が鈍くなったりする可能性があり、人口密度の高い部屋などでは特にきをつけて換気したい。
3000ppm〜 長時間の滞在で健康被害が危惧される。窓を閉めて自動車を運転していると5000ppmに近くなることもあるというから、注意が必要。

かなりおおまかな表になっていますが、例えば
窓を閉め切った自室で勉強中! → 800ppm
ガスコンロで料理をし始めて、換気扇を付けるのを忘れていた! → 1500ppm
ガスコンロで鍋パーティ、友達を呼びすぎて座る場所もない! → 2000ppm

というように日常の生活の中でも結構すぐに変化します。

こんな情報を載せると
「窓辺のサボテンがよく育つように、換気扇をつけずにガスコンロを使おうっと!」
という人が出てくるかもしれませんが危ないのでやめてくださいね。
しかも二酸化炭素濃度が高ければ高い方がよいというわけでもないようで、一般的には1000〜1500ppmくらいまでが光合成量が最も増えるのだそうです。(参照

10,000円程度からとちょっと高いですけど、二酸化炭素濃度計を使うと確実ですね。身体のためにも1000ppm未満を目安に換気など調整するのがいいんじゃないでしょうか。

夜は植物も呼吸、室温を下げると呼吸量は減らせる

植物が光合成と同時に呼吸もしているということをご存知の方は多いかと思います。日が沈み、室内の照明も消した後の夜間は呼吸だけになります。光の届かない部屋の隅に植物を置いておくと水や温度に気をつけていても枯れてしまうことがありますが、これは光合成によって同化した成分を呼吸によって消耗しきってしまうことが原因です。

逆に、夜間に呼吸する量を減らせば、育成を促進することができると言えます。

植物は一般的に、室温が下がることで(呼吸や光合成などの)活動量が低下します。このことから、夜間の温度をわざと少し下げるということは、ハウス栽培などではよく行われているようです。

特に温度を調整しなくても、夜間は日射が無くなるのでハウス内の温度は下がるのが通常です。室内においては、夜間に暖房をつけっぱなしにするのではなく、外気の気温が下がるに任せて少し温度を抑え気味にするのがいいかもしれませんね。
ちなみに私の住んでいるスウェーデンを含むヨーロッパの北の方(スカンディナビアはもちろんドイツなどでも)では、窓の下に温水式のレディエーターが付いており、冬場は付けっぱなし、というのが普通です。もったいないですね。
まぁ、断熱の無い寒い日本のアパートで何年も過ごした身としては、ヒトに優しい国だな、とは思うんですが。

話は逸れましたが、環境のためにも、室内の植物の成長のためにも、夜間は暖房を控えるのがいいかもしれません。
ただ日本のアパートは寒い家は本当に寒いので、ご自身の身体のためにも最低16度は保てるように心がけてくださいね。

本格的なハウス栽培ではわざと二酸化炭素を足す!

二酸化炭素の濃度が光合成に重要というのは農業を営む方にとっては当然の知識のようで、炭酸ガスをわざわざハウス内に足すようなことも行われるようです。

植物の密集したハウス内では、昼間は二酸化炭素の量がかなり下がり、特に冬場は温度を保つ為に換気を控えるので、光合成速度に影響を与えるのだそうです。

CO2濃度の時間推移とレタスハウスの内外における差異

図はレタスを栽培するハウス内と、戸外の二酸化炭素濃度の時間帯における推移を示したものです。
日中はさんさんと降り注ぐ日光でレタスがいっぱい光合成をしているので、二酸化炭素濃度が0.025%近くまで下がっています。逆に夜間は植物も呼吸するので0.045%と戸外に比べて二酸化炭素濃度が上がっています。面白いデータですよね。レタスでこれですが、夏野菜のトマトなんかですと、強い光を存分に利用して光合成をするのでハウス内は200ppm(0.02%)にまで下がることすらあるそうです。

炭酸ガス(二酸化炭素)の濃度が大気中の濃度よりも下がる状態は光合成量が著しく落ちるようで、例えば350ppmから250ppmに下げると成長量が19%も落ち、逆に350ppmから450ppmにまで上げた場合、12%も成長量が増えたという結果が、少し古いのですが1994年の研究で出ているようです。(参考

ちなみに、さらに二酸化炭素濃度が増えた場合、成長量自体は増えるものの増加量はどんどん減っていき、1000ppmから1100ppmに増えた場合では1.5%程度の成長量の差しか生まないそうです。

ここで言う成長量というのが定義されておらず、二酸化炭素の固定量なのか(光合成量-呼吸量)、光合成量なのか、など突き詰めようとすると疑問が尽きませんが、長くなるので今回の記事では深堀りしないでおきます。

炭酸ガスを得る為の方法としては、主にガスなどを燃やすのが主流のようです。うむ〜、なんだか本末転倒な気もしますね。
二酸化炭素が高濃度であるほど収穫量が増えるのは増えるのですが、先述のように増加率はどんどん落ちていくこと、そして外気とのCO2濃度の差が増えるほど、ちょっとした隙間からのロスが増えがちなので、外気とほぼ同等の400ppmを長時間保てるようにすると採算性が良い、とする記述が見あたります。

ここで、人間の活動の中で二酸化炭素が排出される場面はなにかと多いので、わざわざ作物用に二酸化炭素を作るよりこれらをどうにか活用できないのか、という疑問が自然と湧いてくると思います。

副産物としての二酸化炭素を農業に活用する技術としては「トリジェネレーション(tri-generation)」というのが有名です。コージェネレーションシステムの代表としては住宅用のエネファームがありますが、このシステムではガスを燃やして「電気」を作る排熱で「お湯」も沸かします。コージェネでは排出されるままであった「二酸化炭素」を作物の育成に活用できるようにしたのが、「トリジェネレーション(tri-generation)」です。

農家で必要な電気、暖房用の熱、そして二酸化炭素を全てこのシステムで供給できるので、将来は各農家に一台、というのが目標とするところでしょうか。
特に花の生産において二酸化炭素の濃度調整は効果が高いようで、オランダが研究でリードしているというのも納得できます。

そういえば、最初に出て来た、「寝室に観葉植物を置くと(CO2濃度が上がって)身体に良くない」説ですが、グリーンハウスいっぱいのレタスの場合で夜間CO2濃度が450ppm程度までしか上がらないので、室内にモンステラ一株置いたくらいで気にする必要はない事が分かりますね。

まとめ

室内では結構すぐに二酸化炭素濃度が上がるので植物の育成をブーストしやすい。でもやっぱり植物より自身の身体の方が大切なので、1000ppmを目安に換気も気をつける。

夜間植物は呼吸をしているが、室温が下がることでこの呼吸量を減らすことができる。呼吸が減ることは消耗が減ることを意味し、育成促進につながる。冬場の夜間は最低16度を目安に、昼と夜の寒暖差を付けてあげると成長が進みやすいかもしれない。